ステアリング・コミツティは本来、審議と意思決定の機関だが、マネジメント意識改革の場でもある。
審議を通して部門連携をするためには、管理者はどういう意思決定をしないといけないのかという意識を共有するのである。
すると、プロジェクト解散後、プロジェクト・メンバーが各々の職種に戻っていっても、連携した行動をのびのびと実行できる。
サプライチェーンにおける人材育成とは、その全体像を理解した人を育成するための仕組みづくりであり、実際にその行動をどういうふうにやっていけばよいのかを上も下も含めて共有化していくことである。
その意味で、「こういう受注がきたときに、どうするか」、あるいは「協力業者との付き合いはどうするか」、「こういう事態になったら、キャンセルを入れるのか」、「どういうタイミングで生産計画の変更のミーティングを聞いて、何を決めるのか」などを、個別に新しいプロセスとルールに落としていく過程で検討を重ねることが、トレーニングそのものになるのである。
プロジェクト・メンバーはそれを通して、自分たちがその場に立ったときにどういう行動をとるべきかを学ぶ。
そして部門の管理者は、そのときにどういった方針で決裁するのか、いわば自分がどういう判断をすると、各部にどういう影響をおよぼすのか。
それをマネジメントを集めたステアリング・コミツテイでの討議を通して共有化していく。
サプライチェーンは、それがあるルール、人、システムが連動して円滑に回り始める。
これがポイントである。
プロジェクト終了後、コンサルタントにとって成功だと思える瞬間は、「プロジェクト・メンバーが成長した。
クライアントに自分の力で変革を続けていく力がついた」と実感するときである。
プロジェクト・メンバーから次のようなメールが届いたときがまさにその瞬間である(原文をそのまま掲載させていただいた)。
「プロジェクト活動を通じて、われわれメンバーは協力して問題解決を図ることへの自信がつき、権限委譲されることに不安を覚えなくなりました。
二年半前のプロジェクト発足当初は期待と不安が入りまじり、つらい日々の連続でした。
最初は正義感を前面に出して取り組みましたが、各職場の現状の問題点を把握して整理の段階に入ると元気がなくなりました。
今だから話せますが、現状の問題点はランドマーク・タワーのように空高く積み上がっています。
これだけの問題を抱えながら、会社がつぶれなかったのは不思議なぐらいです。
全体的なムードとして他部門の業務に無関心で、部門間の業務は効率がよくありませんでした。
問題は把握していても、部門聞の問題を解決しようとするアクションがとられていないこともありました。
組織横断的なプロジェクトの問題解決は、現場担当者でもやれることを身をもって経験しました。
深夜におよぶ作業や休日出勤でのミーティングなど、とてもつらい日々の連続は、楽しかった思い出に変わりました。
終電のなかで真剣な議論を交わしながら反省会もし、あるいは世話役の上司に助言を求めたら話が複雑になり、睡眠不足になったこともありました。
学んだことは外注先にも説明し、その効果として、社内の関連部署の責任や権限に対する考え方、期待することなどがお互いによく理解できました。
サプライチェーンを通じて社内の縦と横の関係、社外への輪が広がり、パートナーシップが構築できたことを確信しています」プロジェクトを経た人たちのなかから何人かがこういう感想をもち、行動も変わってくると、会社全体が変わる。
確かに業務インフラとしての情報システムは、変革を加速できる。
あるいは、人の部分を仮に無視しても、少しだけは効果が上がる部分はあるかもしれない。
しかし、本当の意味でサプライチェーンが柔軟に働き、全体の動きがよくなるか否かは、人にかかっている。
なぜなら、競争環境その他の条件は、日々刻々と変わる以上、どのようによく考えられたプロセスやルールでも、でき上がったときから陳腐化が始まる。
変化に柔軟に対応して継続的に革新を続けられるかどうかは、何より人にかかっているのである。
したがって、ITコンサルティングでは、情報システムにあえて頼らず、人の部分を忘れないことが重要である。
プロセス、ルールも含めてバランスよく手を打っていき、変革が継続する仕組みをつくり上げるマインドとスキルが求められるのである。
最後に、ITコンサルティングのマインドとスキルに関するアドバイスを何点かあげておきたい。
本文ですでに触れたものもあるが、あえて繰り返すことを恐れずにまとめたものである。
少し前までは、「インターネットは隙石みたいなもので、これによって適応の遅い恐竜が滅ぶ」、「インターネットによって、小さな会社がどんどん大きくなっていく」と言われていた。
それが今度は、「いわゆるネットジェン・カンパニーと言われるインターネットの世界だけに閉じた会社では、やっぱり限界があるのではないか」ということで、バーチャルとリアルの融合が言われている。
確かに、ITはそれ自体が変革の要素となりうる。
しかし、実際には、現状の人、組織、業務とのうまい組み合わせがあって初めて、ITが活用でき、お金儲けにつながるビジネスになるのである。
問題を分解していくと、その原因は、ルール、プロセス、人、情報システム、取引先との関係や顧客との関係にまでかかわっていることがわかる。
それらを全部含めて考えたときに、初めて成果を出すITソリューションが生まれ、狙いどおりの効果を発揮する。
それを忘れて、ITソリューションだけを導入しても、実際には何も起こらない。
お金を使っても何も起こらないのである。
そこでビジネスとITのブリッジが必要なのである。
これが一番重要なことだ。
アカデミックな実験室の世界とは異なり、企業をとりまく環境は、時々刻々と変わっていく。
そのなかに正解は存在しない。
それは探すものではなく、つくるものだ。
学生気分が抜けない若い人に、「ここはどう考える?」と聞けば、彼は頭のなかで考えをめぐらせて、正解を察知しようとする。
「何が正解なのだろう」、「何と言えば相手がオーケーと言うのか」と、頭をフル回転させがちだ。
だが、実際に求められているのは、彼や彼女が「どう考えるか」という意見(異見)であり、問い掛けた人間が頭に描いている解答ではない。
そもそも経営者、一番トップに立つ人たちは、「道を自分で切りひらいていく人」であるから、正解を人に求めたりしない。
彼らが求めているのは、「後悔のない決断」である。
それは、いろいろな情報や見方を集め、そのなかから「自分はどうするか」を自ら決めることである。
したがって、もしコンサルタントやITの活用を提案する人間が、「あなたさまはどうお考えですか」、「私どもはそれに応じて好きなようにものをおつくりします」と言ったとしたら、たぶん相手にされない。
彼らは、やりたいことが定まり、「つくりたいもの」が決まったときに出てくるべき人たちであって、全体のビジネスの絵を描いたり、収益を上げるために何をすればよいかという構造がわからないような一番最初の段階では、必要とされない人たちである。
問題の構造は、「今、ITをビジネスにどう利用したらよいか」というときには明らかにはなっていない。
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